第2章 野外教育の歴史と考え方

このページは「キャンプ指導の基礎」の一部です。キャンプ指導の一般的な知識をまとめたもので、特定の資格講習の公式教材ではありません。本文の[番号]は、ページの下の「出典と調べた日」の番号です。

米国と日本での組織キャンプの始まり、野外教育を「関係」から捉える考え方(野外教育の木)、冒険教育と環境教育の 2 本の柱を学びます。

このページで学ぶこと

  • 米国と日本の組織キャンプの歩み
  • スポーツ振興法とスポーツ基本法でのキャンプの位置づけ
  • 「野外教育の木」:根・幹・実
  • 冒険教育の 4 つの要素と、環境教育のルーツ

2.1 米国での始まりと広がり

年 出来事
1861 コネチカット州のガナリー・スクール(現在の Frederick Gunn School)の校長が始めたキャンプ(Gunnery Camp)が、最初の組織キャンプとされる [1][4]
1941 英国で Outward Bound(アウトワード・バウンド)が設立される(Lawrence Holt、Kurt Hahn ら)。冒険教育の代表的な団体になる [40]
1943 L. B. Sharp が論文 "Outside the Classroom"(The Educational Forum 誌)で、教室の外で学ぶ教育の意義を説く。Sharp は "outdoor education"(野外教育)の考え方を広めた人物として知られる(ただし、この語を初めて使った人とは言えない。論文の本文は未確認。付録 A)
1962 Rachel Carson『沈黙の春(Silent Spring)』刊行 [41]。自然保護や環境への関心が高まる
1971 Outward Bound の考え方を学校教育に取り入れた Project Adventure(プロジェクト・アドベンチャー)が始まる [42]

1970 年代以降、環境教育・冒険教育・障害のある人や特別な支援が必要な子どものキャンプなど、プログラムが多様化・専門化していきました。

2.2 日本での歩み

年 出来事
1916 ボーイスカウト(京都少年義勇団)が琵琶湖畔でキャンプを行う。記念碑「日本ボーイスカウト初野営の地」がある [2]
1920 大阪 YMCA が六甲山の東麓(南郷山)で簡易天幕のキャンプを行う。日本 YMCA 同盟はこれを「日本における最初のキャンプ」としている [2][3]
1932 東京 YMCA が野尻湖畔で、日本初の長期少年キャンプ「野尻学荘」を行う [2]
1953 文部省が『キャンプ指導の手引き』を刊行 [2]
1955 第 1 回教育キャンプ指導者中央講習会が開かれる(1960 年から「全国野外活動指導者講習会」)[2]
1956 文部省が『野外活動に関する安全指導の手引き』を刊行 [2]
1959 国立中央青年の家を設置。以後、全国に国立青年の家が置かれる [7]
1961 スポーツ振興法が制定される。第 2 条で、スポーツの定義に「キャンプ活動その他の野外活動」を含めた [6]
1975 国立室戸少年自然の家を設置。以後、全国に国立少年自然の家が置かれる [7]
1984 文部省が「自然教室」を始める [8]
2008 小学校学習指導要領の総則で、児童に「生きる力」をはぐくむことを目指すことが示され、道徳教育について、集団宿泊活動や自然体験活動などの豊かな体験を通して道徳性の育成が図られるよう配慮することが示される [9]
2011 スポーツ振興法が全部改正されてスポーツ基本法になる。第 24 条で、国と地方公共団体は、キャンプ活動その他の野外活動を普及奨励するための施策を講ずるよう努めなければならないと定めている [6]

2.3 野外教育の考え方:「野外教育の木」

野外教育の研究者 Simon Priest は 1986 年の論文で、野外教育を「さまざまな関係(relationships)」から捉え直しました [10]。この考え方は、木の絵で説明されることがあります(木の絵そのものは、論文の抄録では確かめられませんでした)。

  • 根(養分):五感を通した認知・感情・行動
  • 幹:冒険教育と環境教育の 2 本
  • 実(学びの成果):冒険教育は主に「自分自身との関係」と「他者との関係」、環境教育は主に「生態系(自然界)との関係」と「人間の営みと自然との関係」

2.4 冒険教育

「冒険」は、文字どおり「危(険)を冒す」ことです。冒険教育でいう冒険とは、危険(リスク)を認識した上で、結果は約束されていないけれども、自らの力で困難を乗り越えることで広がるかもしれない可能性を求めて、自らの意思で立ち向かうことです。そこには次の要素が含まれます。

  • 内在する危険(リスク)
  • 結果の不確かさ
  • 目的達成への努力
  • 自らの意思で行うこと

冒険教育は、こうした体験をプログラムとして安全に提供するものです。リスクを「すべて取り除く」のではなく、管理された範囲で活かします(第 4 章)。

2.5 環境教育

日本の環境教育のルーツは、1960 年代に始まる公害教育と自然保護教育とされています [11]。

  • 自然保護教育:戦後の開発で失われていく自然を守りたいという市民の危機感から生まれた
  • 公害教育:高度経済成長期の公害問題への対応から生まれた

国際的には、1972 年にストックホルムで国連人間環境会議が開かれ、ストックホルム宣言と行動計画が採択されました [8][12]。環境を主要な課題とした初めての世界会議とされています [12]。2015 年 9 月の国連サミットでは「持続可能な開発のための 2030 アジェンダ」が採択され、17 の目標と 169 のターゲットからなる持続可能な開発目標(SDGs)が定められました [13][14]。

考えてみよう

  1. 冒険教育の 4 つの要素のうち、「自らの意思で行うこと」が欠けると、体験はどう変わるでしょう。
  2. あなたのまわりの公害教育・自然保護教育の歴史(地域の公害や自然保護の運動)を調べてみましょう。

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