寒くない寝床のつくり方|寝袋の温度表示(ISO)とマットのR値、避難所の床

キャンプの夜に寒くて眠れないとき、原因は寝袋だけとは限りません。体の上を覆う寝袋と、体の下で地面の冷えを断つマット。この 2 つがそろって、はじめて暖かく眠れます。この記事では、寝袋の温度表示(ISO 23537-1)とマットの R 値(ASTM F3340)の読み方、標高と気温の関係、そして同じ考え方を避難所や停電の夜にどう使うかをまとめます。

寝袋の温度表示(ISO 23537-1)

寝袋の温度表示には、国際規格 ISO 23537-1 があります。現行は 2022 年 3 月の第 2 版で、スポーツやレジャーに使う大人用の寝袋(限界の温度が −20℃以上のもの)について、寒さを防ぐ性能を、決まった条件の下で測る方法と表示のしかたを定めています。軍用や極地の遠征用など特別な目的の寝袋と、子ども用・乳児用の寝袋は対象外です。

表示によく出る 3 つの温度は、規格の草案(ISO/DIS 23537-1、2015 年)では次のように定義されています。

表示草案の定義の要点
コンフォート(comfort)あお向けなどくつろいだ姿勢で、寒いと感じずにいられる下限
リミット(limit)体を丸めた姿勢で、寒いと感じずにいられる下限
エクストリーム(extreme)低体温症による健康被害が起こりうる温度。草案の注は「死に至るおそれのある危険点」としています

ここで分かるのは、エクストリームは「この温度まで使える」という意味ではないことです。快適に眠れる目安はコンフォート、がまんして眠れる目安がリミットです。寝袋は、泊まる場所の夜の最低気温がコンフォートを下回らないものを選ぶと安心です(このサイトからの提案)。なお、正式版(2016 年・2022 年)の条文の言い回しは、このサイトでは確かめられていません。

マットの R 値(ASTM F3340)

マットの断熱の目安が R 値(熱抵抗)です。米国の ASTM の試験法 F3340(2018 年に制定、現行は F3340-22)は、温めた板と冷たい板の間にマットを一定の力で挟み、マットの厚みの方向に流れる熱から熱抵抗を測ります。ASTM はこの値を、マットを比べて選ぶ消費者の手がかりになるものとしています。

ただし ASTM 自身が、この値はくり返し測れる比べるための値であり、実際の断熱性能といつも一致するとは限らないと書いています。マットの端から逃げる熱、覆われていない面からの熱、寝ている間の姿勢の変化などがあるためです。

R 値を値で比べられるようになった利点として、米国のメーカーの NEMO は、空気で膨らむマットを発泡のマットの上に重ねるような使い方で、重ねたマットの R 値を足し算で出せることを挙げています(規格そのものは、補助の断熱材を除いた 1 枚のマットを測るものです)。

地面は体の熱を奪う

野外教育の学校 NOLS は、寝袋やマットを使うと冷たい地面からの断熱になり、冷たい地面は体の熱をすばやく奪うことがある、と説明しています。2025 年に発表された救助の場面の小規模な実験(ボランティア 7 人を救助用の板〔スパインボード〕に乗せ、気温 −10℃の部屋のコンクリートの床に置いた)では、地面へ伝わって失われる熱が、失われる熱全体のおよそ 5 分の 1 でした。条件の限られた実験ですが、「下から冷える」ことを数字で示しています。

寝袋を厚くするより、まずマットを足すほうが効く夜もあります(このサイトの考え)。

山の上は寒い:標高と気温

気象庁の用語の説明では、高度が上がるにつれて気温が下がる割合は、対流圏では普通、100 m につき 0.5〜1℃です。観光庁の多言語の解説(乗鞍岳)は、標高 100 m ごとに 0.6℃ずつ下がると書いています。たとえば、ふもとより 1,000 m 高いキャンプ場では、およそ 5〜10℃低くなる計算です(このサイトの計算)。環境省の白山の解説には、海岸近くが 30℃のとき、白山の山頂(2,702 m)は 14℃くらいになるという例があります。

天気予報の気温は、ふもとの町の値であることが多いので、泊まる場所の標高で引き算をして寝袋を選びます(このサイトからの提案)。

避難所や停電の夜に置き換えると

内閣府の「避難生活における良好な生活環境の確保に向けた取組指針」(令和 6 年 12 月改定)は、パーティションや段ボールベッド・エアーベッドなどの簡易ベッドを避難所に備蓄し、開設時に設置することが重要だとしています。床に長く横たわっていると、エコノミークラス症候群を引き起こすだけでなく、ほこりなどを吸い込むことによる健康被害も心配されるため、ベッドの設置が望ましい、という理由です。居住スペースは、スフィア基準に沿って 1 人あたり最低 3.5 ㎡とすることも書かれています。

厚生労働省は東日本大震災の際の事務連絡で、床に直接座るのではなくマットや畳を敷いた上に座ることが寒さ対策の一つになること、低体温症の震えが始まったら地面に敷物をしく、風をよける、濡れた物を脱いで毛布などにくるまるなどの対応をすることを呼びかけていました。

キャンプのマットと寝袋は、そのまま避難所や停電の夜の寝床になります。東京都の東京備蓄ナビも、寝袋・マットを避難所で寝るときに役立つキャンプ道具に挙げています。車で夜を過ごすときの注意は「車中泊とエコノミークラス症候群」へ。

湯たんぽ・カイロ・電気毛布の低温やけど

寝るときに体を温める道具には、低温やけどの注意があります。消費者庁によると、皮膚が損傷を受ける温度と時間の目安は、44℃で 3〜4 時間、46℃で 30 分〜1 時間、50℃で 2〜3 分です。暖かく感じる程度の温度でも、長く皮膚に触れていると、熱いと感じないままやけどになります。

  • 湯たんぽは寝る前に布団(寝袋)を温めるのに使い、温まったら出してから寝る。
  • 寝るときはカイロを使わない。
  • 電気毛布などは高温で使わない。
  • 痛みや違和感があれば、自分で判断せず、すぐに皮膚科などを受診する。

テントや車の中で暖房のために火を使うのは、一酸化炭素中毒のおそれがあります。「テントや車の中で火を使わない」をご覧ください。

暖かく眠るための工夫(このサイトからの提案)

工夫理由
マットを 2 枚重ねる(発泡のマット+空気のマット、段ボール+銀マットなど)下からの冷えを断つ。空気のマットに穴があいたときの予備にもなる
寝る前に乾いた服に着替え、帽子と靴下を足す汗や結露で湿った服は冷える
寝る前に温かい物を飲み、少し食べる体が熱を作る元になる
寝袋の中に、翌朝着る服を入れておく朝、冷えた服を着ずに済む
テントの換気口を閉め切らない結露で寝袋が湿るのを減らす

英語版には、米国の目安と合わせて書いた別の記事があります:Sleeping warm: sleeping bag temperature ratings and sleeping pad R-values。

ふだんは

キャンプでは、寝袋の温度表示とマットの R 値を見て、泊まる場所の夜の気温に合う寝床を組みます。

もしもの時は

停電の夜や避難所でも、マットと寝袋で床の冷えを断てます。段ボールや銀マットを重ねるのも同じ考え方です。

出典と調べた日

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