第4章 安全管理(1)リスクマネジメントと計画

このページは「キャンプ指導の基礎」の一部です。キャンプ指導の一般的な知識をまとめたもので、特定の資格講習の公式教材ではありません。本文の[番号]は、ページの下の「出典と調べた日」の番号です。

リスクを「ゼロにする」のではなく「コントロールできる範囲にとどめる」考え方、危険の要因の分け方、ハインリッヒの法則とヒヤリ・ハット、計画段階での安全管理を学びます。

このページで学ぶこと

  • リスクマネジメントの考え方
  • 人的要因と外的要因
  • ハインリッヒの法則、ヒヤリ・ハット、危険予知訓練(KYT)
  • 日程・キャンプ場選び・実地踏査・健康調査・保険

4.1 リスクマネジメントの考え方

リスクマネジメントとは、リスクの存在や大きさを事前に把握し、合理的な方法とコストで対策を講じておくことで、事故が起きたときの損失を許容できる範囲にとどめることです。

  • 人の手でリスクをゼロにすることは、ほぼ不可能です。目標は、リスクを自分たちがコントロールできる範囲にとどめることです。
  • 「あれもこれもダメ」とリスクをすべて排除すると、キャンパーの主体性が育たず、キャンプ本来の教育的な価値が薄れます。
  • 安全管理の目的は、事故を防ぐこと(マイナス面への対応)だけではありません。安全を確保した上で質の高いプログラムを提供し、キャンプの体験を充実させること(プラス面)も目指します。
  • 参加者自身が「何が危険で、どうすれば防げるか」を学ぶ安全教育も、キャンプの大切な学びです。
  • 近年は、事故が起きたときに指導者の法的責任が問われる例もあります。

4.2 危険の要因を分けて考える

区分 内容 例
人的要因(人に内在する要因) 身体的・精神的・人間関係 体力、筋力、疲労、集中力、意欲、年齢、経験、人間関係
外的要因(人を取り巻く環境) 天候・気象、地形、活動、動植物 雨・雷・暑さ、崖・川、プログラムの内容、ハチ・毒草

実施する日・場所・内容・対象者の状況から、想定できる限りの危険を予測することが安全管理の第一歩です。予見しやすい危険もあれば、経験を積んでから見えてくる危険もあります。

4.3 ハインリッヒの法則とヒヤリ・ハット

ハインリッヒの法則は、米国の損害保険会社の安全技師ハインリッヒが示したもので、「同じ人が起こした 330 件の災害のうち、1 件は重い災害、29 件は軽い災害、300 件はけがのない事故」という関係(1:29:300)です [18]。厚生労働省は、大切なのは比率の数字そのものではなく、災害の背景には数多くの危険な要因がある、ということだと説明しています [18]。

ヒヤリ・ハットは、「もう少しでけがをするところだった」と、ヒヤッとしたりハッとしたりした出来事です。これを取り上げて事故の防止に結びつけることが大切です [19]。

危険予知訓練(KYT)は、状況を描いたイラストや実際の作業を使い、小集団で話し合って危険のポイントを確認し、行動する前に解決する訓練です [20]。キャンプ前のスタッフ研修や、キャンパー自身への安全教育にも応用できます。

4.4 計画段階での安全管理

基本は、対象者や目的に合わせてプログラム・運営体制・指導法を決めることです。キャンパーズ・ファースト(キャンパーの立場を最優先する)を忘れ、指導者が自分の楽しみや都合で計画すると、有意義なキャンプにならないだけでなく、事故やけがにつながります。

(1) 日程・プログラムをつくるときの留意点

留意点 内容
対象者の特性を考える 人数・年齢・経験・体力によって、活動にかかる時間が違う。難易度を合わせないと無理がたたる
ゆとりを持たせる あれもこれも詰め込むと時間に追われ、キャンパーに無理を強いる
活動のバランスをとる 動的な活動が続くと疲れがたまり、けがの原因になる。休憩や静的な活動(クラフト、スケッチなど)をはさむ
スタッフ体制を整える 活動内容に応じた人数と役割分担。経験のある人や有資格者を必ず加える
悪天候に備える 晴天時・雨天時のほか、台風などの荒天時の計画もつくっておく。悪天候なのに晴天時のプログラムを強行しない

(2) キャンプ場を選ぶときの安全と衛生

  • 崖崩れ・落石・河川の増水・雪崩などの危険がある場所を避ける
  • 危険な動植物(ハチ、ヘビ、ウルシなど)が多い場所を避ける
  • 緊急時に安全に避難できる場所がある
  • 外部と連絡がとれる(携帯電話の電波を含む)
  • 医療機関が近い、または救急車を呼びやすい
  • 水はけが良く、風通しの良い場所
  • 枯れ木や大木の近くを避ける(倒木・落枝)

(3) 実地踏査(下見)

計画の前に、実際に現地を歩いて確かめます。集合場所、交通機関の使い方(人数によって変わる)、トイレの数、移動中・休憩場所・キャンプ場内の危険箇所、立入禁止区域、救急医療機関、緊急避難場所などを確認し、記録しておきます。わからないことは地元の人に聞きましょう。

(4) 事前説明会と健康状態の把握

  • 保護者にも参加してもらい、趣旨・日程・集合解散場所・緊急連絡先・持ち物・注意事項を共有する
  • 荷造りは子ども自身にさせる、持ち物に名前を書くなど、自主性を育てる協力を保護者にお願いする
  • 参加申込書と一緒に健康調査票を出してもらい、持病・治療中の病気・アレルギーを一人ひとり把握する
  • 食物アレルギーはアナフィラキシー(皮膚・消化器・呼吸器などの症状が複数、急激に出る状態)を起こすことがあり、その原因のほとんどは食物です [27]。食材の管理に特に注意する
  • 得た情報は事前のスタッフミーティングで共有し、該当者への対応と処置の手順を決めておく。個人情報なので管理を厳重にする(第 9 章)

(5) 保険

傷害・賠償責任など、活動に合った保険に、参加者と指導スタッフ全員が加入します。たとえば公益財団法人スポーツ安全協会の「スポーツ安全保険」は、4 名以上の団体で加入するもので、補償の対象となる活動の区分にキャンプなどの野外活動が含まれます [29]。保険に入っていることを事前に参加者に伝えます。ただし、保険があるから安心なのではなく、けが人や病人を出さないことが最も大切です。

考えてみよう

  1. あなたが経験したヒヤリ・ハットを一つ思い出し、それが重い事故につながるとしたら何が重なったときか考えてみましょう。
  2. 悪天候の計画(雨天時・荒天時)を、晴天時の計画と同じくらい具体的に書けますか。

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