防災キャンプの始め方|停電・断水を想定して、家族で一晩過ごしてみる

停電や断水が起きた夜を、本番の前に一度だけ体験しておく。それが防災キャンプです。東京都の「東京備蓄ナビ」は、キャンプギア(テント・寝袋・調理器具などのキャンプの道具)は非常時にも使えるものが多いとしたうえで、子どもがいる家庭では家族でキャンプをしながら防災を学べること、そしてキャンプ場に行かなくても、一晩キャンプギアだけで過ごしてみると災害時のシミュレーションになることを紹介しています。

この記事では、学校や自治体が行ってきた防災キャンプの中身を手がかりに、家族で始める一晩の組み立て方をまとめます。

学校や自治体の防災キャンプでは何をしているか

文部科学省は「学校・地域を避難所と想定した防災キャンプ」を、平成 26 年度まで「体験活動推進プロジェクト(防災キャンプ推進事業)」として実施し、各道府県の成果報告書を公開しています(実施団体の一覧は平成 29 年度まで載っています)。報告書から、実際のプログラムを拾うと次のようになります。

実施した所主な内容
熊本県(平成 24 年度・県立青少年の家)2 泊 3 日。体育館で、食事・電気・水などの制限を受けながら共同生活。段ボールでの居住スペースづくり、飯ごう炊飯、夜間の避難訓練、ため水での洗面・炊事、トイレの使用などの生活体験
宮城県(平成 25 年度)家族で参加する回あり。電気やガスが使えない状況で炭火などを使う、段ボールで寝床をつくる。在宅避難を想定し、家庭にある器具や食材で食べ物を作る
国立山口徳地青少年自然の家(令和 3 年度・小学 5〜6 年生)1 泊 2 日。段ボールのパーティションと寝床づくり、アウトドアグッズを使った夕食づくり(メスティンで防災食)、身近なものでランタンを作る。避難所体験のため入浴はしない
水戸市(2024 年・親子)炊飯袋でお米を炊く炊き出し訓練、市の備蓄のロールマットや簡易間仕切りで避難所を展開する訓練、最後に車座になって振り返り
北海道当別町(2026 年・親子 15 組)実際に避難所になる体育館で、炊事体験やダンボールベッドの作成

共通しているのは、寝る・食べる・明かり・水・トイレを、ふだんの設備に頼らずにやってみることです。熊本県の報告書は、段ボールの居住空間づくりや煙体験などを通して、自分の安全を自分で確保する「自助」の大切さを実感できたとまとめています。一方で、3 日間を通して参加できる人を集めるのが難しかったことも課題に挙げています。家族でやるなら、最初は短く始めるほうが続きます。

どこでやるか:家・庭やベランダ・キャンプ場

場所向いていること気をつけること
家の中(在宅避難の練習)自分の家の備蓄で何日暮らせるかが分かる。家具の配置やトイレの困りごとが見える火を使う道具は屋外用を持ち込まない。カセットこんろは換気をして取扱説明書に従う
庭・ベランダテントや寝袋を試せる。子どもが楽しみやすいキャンプ用品の誤った扱いは火災や大きなけがにつながる(下の「安全のために」)。集合住宅の規約も確かめる
キャンプ場道具の扱いに慣れる。たき火・炊事を屋外で安全に練習できるキャンプ場の決まりに従う。家の備蓄そのものは試せないので、家でも一度やる

東京都は、耐震性など安全性の高い建物では「在宅避難」も避難の選択肢の一つになるとして、在宅避難の準備を呼びかけています。家でやる防災キャンプは、その予行演習にもなります。

始め方:数時間から、1 日、3 日へ

神奈川県綾瀬市は、すべてのライフラインが止まったと仮定して自宅で一定期間暮らす訓練を「ホームサバイバルトライアル」として紹介しています。進め方の要点は次のとおりです。

  1. 短く始める:まずは 1 日、慣れたら 3 日間がよいと言われるが、家族全員の理解がないと難しいので、2〜3 時間ほどから始めることも考える。
  2. ライフラインを止める:ブレーカーを落とす、ガスの元栓を閉める、水道を控えるなど、できる範囲で止める。元栓などはそのままにして「止まったもの」として使わないやり方でもよい。
  3. 備蓄品だけで暮らす:食事・トイレ・衛生を備蓄品でまかなうと、気づかなかった必需品に気づける。
  4. 家族で振り返る:足りなかったものや改善点をまとめ、次の備えに活かす。

冷蔵庫・冷凍庫の中の食品を傷めないよう、ブレーカーを落とすのは冷蔵庫の回路を除くか、「止まったもの」として扱うやり方がおすすめです(このサイトからの提案)。

一晩で試すことの一覧

東京都・綾瀬市・政府広報オンラインの資料に挙がっている道具と、確かめたいことを、場面ごとに整理しました(表の組み立ては、このサイトの考え)。

場面使う道具の例確かめること
明かりLED ランタン、ヘッドライト(東京都)家族全員の分があるか。トイレや廊下まで両手を空けて動けるか
食事カセットこんろ、ポータブルガスバーナー(屋外)、メスティンと固形燃料(東京都)温かい食事を何回作れるか。ボンベの残りは足りるか。洗い物をどう減らすか
水備蓄の水、ウォータージャグ(東京都)飲む・調理・歯みがきで実際に何リットル使ったか
トイレ携帯トイレ・簡易トイレ一度使ってみる。綾瀬市は、一度使って感覚を知っておくだけで気持ちにゆとりが出ると書いています
寝る寝袋・マット(東京都)、段ボール床の冷えや硬さで眠れたか。家族が並んで寝られる広さはあるか
情報乾電池でも使えるポケットラジオ(綾瀬市)ラジオで地元の情報が聞けるか。スマートフォンだけに頼らない
充電ソーラーチャージャー、モバイルバッテリー東京都は、通信手段の確保が大切なので事前に試しておくと安心としています

数の目安は、次のページで家族の人数から出せます。

安全のために

防災キャンプでいちばん避けたいのは、練習のつもりの一晩で事故を起こすことです。

  • テントや車の中で燃える道具を使わない:東京消防庁は、テント内ではガスランタン、アウトドア用こんろ、カセットこんろなどを使わないよう呼びかけています。テントや車内で使うと、一酸化炭素中毒や酸欠になる場合があるためです。詳しくは「テントや車の中で火を使わない」へ。
  • おうちキャンプの事故:NITE(製品評価技術基盤機構)は、屋内やベランダで楽しむ「おうちキャンプ」について、キャンプ用品の扱いを間違えると火災や重いけがのおそれがあると注意しています。NITE に通知されたキャンプ用品の事故は、2015〜2019 年度の 5 年間で 183 件、うち火災が 122 件、死亡事故が 7 件でした。
  • 発電機は屋外だけ:携帯発電機は屋内では絶対に使わず、屋外の風通しのよい場所で使います(NITE)。
  • ボンベの保管:使い終わったカセットボンベは機器から外し、室内の 40℃未満の場所に保管します(NITE)。こんろの使い方は「カセットこんろとボンベの安全」へ。

子どもと一緒にやるとき

文部科学省の学校防災の参考資料は、防災教育のねらいの一つに、危険を理解・予測して自分の安全を確保する行動ができるようにすることと、日常的な備えができるようにすることを挙げています。防災キャンプは、その「日常的な備え」を家で体験できる機会です。

ここからは、このサイトからの提案です。

  • 子どもに役割を一つ渡す(明かりの係、水の量を記録する係など)。
  • 怖がらせる話より、「電気がなくてもできた」という経験を残す。終わったら、できたことを一つずつ言葉にする。
  • 水戸市の例のように、最後に車座で振り返る時間をとる。足りなかった物は、その場で買い物のメモにする。

終わったら:備えを直す

一晩やってみると、「ボンベが思ったより減った」「トイレの袋の捨て場所に困った」「ラジオの電池が切れていた」といった、紙の上では見えない穴が見つかります(このサイトの考え)。その穴を埋めるところまでが防災キャンプです。食品は、ふだん食べながら買い足すローリングストックで回すと、次の防災キャンプの食事にもそのまま使えます。

英語版には、日本の防災キャンプを米国の備えの手引きと比べて紹介した、別の記事があります:Disaster camping: Japan's habit of practicing a night without power, water or gas。

ふだんは

キャンプ場や庭で、テント・寝袋・ランタン・こんろを使って家族で一晩を楽しみます。道具の扱いに慣れるのが、そのまま練習になります。

もしもの時は

停電・断水の夜に、慣れた道具で明かり・温かい食事・寝床・トイレをまかなえます。足りない物が事前に分かっているので、慌てずに済みます。

出典と調べた日

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