第12章 子どもの自然体験と体力の今

このページは「キャンプ指導の基礎」の一部です。キャンプ指導の一般的な知識をまとめたもので、特定の資格講習の公式教材ではありません。本文の[番号]は、ページの下の「出典と調べた日」の番号です。

国立青少年教育振興機構の全国調査に見る子どもの自然体験の減り方と、体験と自己肯定感・自立的な行動習慣の関係、こども大綱が掲げる体験の機会、スポーツ庁の調査に見る子どもの体力の変化を、指導者の立場から読みます。

このページで学ぶこと

  • 子どもの自然体験と、自然体験の行事への参加がどれだけ減ったか
  • 体験の多さと自己肯定感・自立的な行動習慣の関係(相関であること)
  • 体が大きくなったのに、走る・投げる力が下がっていること

子どもの自然体験は減っている

国立青少年教育振興機構は、子どもの体験活動について、ほぼ数年おきに全国調査を行っています。公表されている最新の「青少年の体験活動等に関する意識調査(令和4年度調査)」は、2023 年 1〜3 月に、小学生から高校生までの子ども(回答 15,698 人)と保護者(14,037 人)に尋ねたものです[1]。主な結果は次のとおりです。

  • 「2010 年代を通じて、子供の自然体験にやや減少傾向がみられ、コロナ禍を経た令和4 年にはさらに減少している」。自然体験が「多い」「やや多い」子どもは合わせて 33.8% で、令和元年(2019 年)の 38.7% より減りました[1]。
  • 小学生が、公的機関や民間団体が行う自然体験活動の行事に参加した割合は 36.7% で、令和元年の 50.0% から大きく減りました[1]。
  • 年代にかかわらず、「キャンプ・登山などの野外活動をする」ことが、精神的健康度の高さと関連していました[1]。
  • 小・中学生では、自然・社会・文化芸術・交流・探究学習の 5 種類の体験のどれもが、自立的な行動習慣を伸ばすのに有効でした[1]。

その前の令和元年度調査の報告書は、「社会経済的背景の相違に関わらず、自然体験が多い青少年の方が自己肯定感を抱き、自立的行動習慣を身につけていることが示された」とまとめています。また、「保護者の自然体験が豊富なほど、子供は生活体験、自然体験、お手伝いの体験が豊富になる傾向がみられた」とも報告しています[2]。

これらは、体験の多い子どもにこうした特徴が「見られる」という関係(相関)で、自然体験だけが原因だと言い切れるものではありません。ただ、家庭の経済的な状況を考えに入れても関係が見られた、という点は大切です。

国も「体験の機会」を政策にしている

政府は 2023 年 12 月 22 日に「こども大綱」を閣議決定しました[3]。大綱は「遊びや体験活動は、こども・若者の健やかな成長の原点である」とし、自然体験などの多様な体験の機会や場を「意図的・計画的に創出する」こと、そして「地域や成育環境によって体験活動の機会に格差が生じないよう配慮する」ことを掲げています[4]。

子どもの体力:体は大きく、投げる力は弱く

スポーツ庁の「体力・運動能力調査」の報告書には、昭和 40 年代からの記録が年ごとに載っています。11 歳の子どもの記録を、親の世代が子どもだったころ(昭和 60 年度=1985 年度)と比べてみます[5]。

11 歳の記録1985 年度2017 年度2025 年度
身長(男子)143.2 cm145.0 cm146.1 cm
身長(女子)145.5 cm146.7 cm147.4 cm
50 m 走(男子)8.75 秒8.79 秒8.91 秒
50 m 走(女子)9.00 秒9.12 秒9.27 秒
ソフトボール投げ(男子)33.98 m26.81 m25.50 m
ソフトボール投げ(女子)20.52 m16.33 m15.39 m

(スポーツ庁「令和 7 年度体力・運動能力調査報告書」の参考資料の表から抜き出したもの。身長の資料出所は文部科学省「学校保健統計調査」)[5]

体は 1985 年度より大きくなっているのに、50 m 走は遅く、ボール投げは男子で約 8.5 m、女子で約 5.1 m 短くなっています(表の値からの計算)。

ただし、すべてが下がっているわけではありません。スポーツ庁は令和 7 年度の結果について、新体力テストが始まった平成 10 年ごろと比べると、上体起こし、長座体前屈、反復横とび、20 m シャトルランは「ほとんどの年代で令和7年度の方が高く」、握力、ボール投げ、持久走は「ほとんどの年代で令和7年度の方が低い」とまとめています。合計点は平成 10 年ごろより「男女ともいずれの年代でも令和7年度の方が高い」一方、最近 10 年間では「男女ともに過半数の年代で低下傾向」です[6]。

小学 5 年生と中学 2 年生の全員を対象にした「全国体力・運動能力、運動習慣等調査」(令和 7 年度)では、「体力合計点は、小中学校男女ともに前年度から向上しているが、中学校男子を除いてコロナ前の水準に至っていない」とされています。同じ調査では、運動時間が長い子どもほど体力合計点が高い傾向や、学習以外のスクリーンタイム(テレビ・スマートフォン・ゲームなどの画面を見る時間)が 1 日 3 時間以上の子どもの割合が増えている傾向も報告されています[7]。

キャンプ指導者にとっての意味

ここからは、このサイトの考えです。

  • キャンプは「意図してつくる体験」になった:自然体験は、放っておけば得られるものではなくなっています。だからこそ、組織キャンプの役割は大きくなっています。
  • 量だけでなく質:同じ川遊びでも、安全が確保され、発見を促し、ふりかえりを支える指導者がいるかどうかで、体験の意味が変わります。体験の質の考え方は「第6章 キャンプ指導者の役割と資質」へ。
  • 目の前の子どもの体力に合わせる:歩く距離、荷物の重さ、活動時間は「昔の子どもならこれくらいできた」ではなく、目の前の子どもに合わせて決めます。体力に自信のない子が「できた」と感じられるよう、課題の難しさを調整します。
  • キャンプには、減った動きがそろっている:投げる、運ぶ、登る、でこぼこ道を歩く。キャンプの生活には、ふだんの暮らしで減った動きが自然に入っています。
  • 保護者の体験にも意味がある:保護者の体験と子どもの体験が結びついていることから、親子キャンプや家族向けのプログラムにも意味があります。
  • 参加できる子を増やす:家庭の事情で体験に差がつかないよう、参加費の補助や、学校・地域と組んだ呼びかけを考えます。

考えてみよう

  1. あなたが子どものころにした自然体験と、いまの子どもの体験を比べてみましょう。何が違いますか。
  2. 「体験の質を高める」ために、指導者は活動の前・最中・後にそれぞれ何ができるでしょうか。

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