実技9 応急手当と一次救命処置

このページは「キャンプ指導の基礎」の一部です。キャンプ指導の一般的な知識をまとめたもので、特定の資格講習の公式教材ではありません。本文の[番号]は、ページの下の「出典と調べた日」の番号です。

救命の連鎖と、市民が行う一次救命処置(心肺蘇生と AED、2025 年の指針で変わった乳児の胸骨圧迫)、窒息への対応、出血・やけど・熱中症・ハチとアナフィラキシー・マダニ・低体温症・一酸化炭素中毒など、キャンプで起こりやすいけがと病気の手当の要点を、消防庁の通知と救急蘇生法の指針2025に基づいてまとめます。

このページで学ぶこと

  • 救命の連鎖と、居合わせた人の手当の大切さ
  • 一次救命処置の流れと、2025 年の指針での変更点
  • 窒息、出血、やけど、熱中症への手当
  • ハチ・アナフィラキシー(エピペン)、マダニ、低体温症、一酸化炭素中毒への対応

救急法は、読んだだけでは身につきません。心肺蘇生と AED は、消防や日本赤十字社の講習で必ず実技を練習してください(救命講習の探し方)。このページは、講習で学んだことを思い出すための要点です。手順は 2026 年 10 月 23 日の消防庁の通知[1]と、日本救急医療財団 心肺蘇生法委員会の「救急蘇生法の指針2025(市民用)」[2]に基づきます。

居合わせた人の手当が命を左右する

指針 2025 によると、119 番通報から救急車が現場に着くまでの時間は全国平均で約 9.8 分(2024 年)です[2]。人里から離れたキャンプ場では、もっとかかります。倒れるところを目撃された突然の心停止では、市民が心肺蘇生をしなかった場合の 1 か月後の社会復帰率が 3.7%だったのに対し、した場合は 10.4%と約 3 倍で、市民が救急隊の到着までに電気ショックを行った場合の社会復帰率は 44.4%でした[2]。

心停止の人を救い社会復帰に導く「救命の連鎖」は、「心停止の予防」「早期認識と通報」「一次救命処置(心肺蘇生と AED)」「二次救命処置と集中治療」の 4 つの輪で、最初の 3 つは現場に居合わせた市民にも期待されています[2]。キャンプ指導者にとっての「心停止の予防」は、熱中症などの予防、持病の把握、異変に早く気づくことです。

救急車を呼ぶか迷うときの電話相談「救急安心センター事業(#7119)」は全国 42 地域で実施(令和 8 年度末予定)[3]、子どもの急病の相談は「子ども医療電話相談事業(#8000)」[4]です。実施地域や時間は自治体で違います。命にかかわると感じたら、迷わず 119 番です。

一次救命処置(心肺蘇生と AED)の流れ

  1. 周りの安全を確かめる:車、落石、増水、火など。自分の安全を先に確保する[2]。
  2. 反応を確かめる:肩をやさしくたたきながら大声で呼びかけ、応答や目的のある仕草がなければ「反応なし」。判断に迷うときも心停止の可能性がある[1]。
  3. 助けを呼ぶ:来た人に 119 番通報と AED を頼む。1 人なら自分で通報し、すぐ近くに AED があれば取りに行く。電話のスピーカー機能を使えば、通信指令員の口頭指導を受けながら胸骨圧迫ができる[1]。
  4. 呼吸を確かめる:胸と腹部の動きを見て、「普段どおりの呼吸か」を 10 秒以内で。しゃくりあげるような途切れ途切れの呼吸(死戦期呼吸)は心停止。迷うときも胸骨圧迫を始める[1]。
  5. 胸骨圧迫:下の表のとおり。中断は最小限にし、1〜2 分を目安に交代する[1]。
  6. 人工呼吸:訓練を受けていて、技術と意思があれば、胸骨圧迫 30 回と人工呼吸 2 回を繰り返す。自信がない・ためらいがあるときは胸骨圧迫だけを続ける[1]。小児の心停止、窒息や溺水による心停止、救急隊が着くまでに時間がかかる場合などは、人工呼吸を組み合わせた心肺蘇生が強く望まれます[2]。水辺や子どもの活動、山のキャンプを受け持つ指導者は、人工呼吸まで練習しておきます。
  7. AED:届いたらすぐ電源を入れ、音声に従う(後述)。
  8. 引き継ぐまで続ける:AED は電源を切らず、パッドも貼ったままにする[1]。
成人・小児乳児(1 歳未満)
位置胸骨の下半分。目安は胸の真ん中(左右の真ん中で、かつ上下の真ん中)。衣服を脱がせて確かめる必要はない[1]胸の真ん中(左右の乳頭を結ぶ線の真ん中あたり)[1]
押し方両肘をまっすぐ伸ばし、真上から垂直に。体格に応じて片手でもよい[1]片手の手のひらの付け根で押す[1]。みぞおちを押さないように注意[2]
深さ成人は約 5 cm。小児は胸の厚さの約 1/3[1]胸の厚さの約 1/3[1]
テンポ1 分間に 100〜120 回[1]

2025 年の指針から変わったこと:乳児の胸骨圧迫は、2 本指ではなく片手の手のひらの付け根で行い、位置も「両乳頭を結ぶ線の少し足側」から「胸の真ん中(左右の乳頭を結ぶ線の真ん中あたり)」になりました[1]。古い教材で学んだ人は、講習で学び直してください。

AED の使い方の要点

  • 電極パッドは、胸の右上(鎖骨の下で胸骨の右)と、胸の左下側(脇の下から 5〜8 cm、乳頭の斜め下)に貼る。貼る間も胸骨圧迫を続ける[1]。
  • 胸が濡れていたら乾いた布で拭き取ってから貼る。貼り薬や湿布は剥がす。医療用の植え込み器具がある場合はパッドを離して貼る[1]。水辺の活動では、拭くためのタオルを AED と一緒に持っていきます。
  • ブラジャーなど下着の上からパッドを貼ってはいけません[2]。ずらして正しい位置の素肌に貼れれば、完全に外す必要はなく、人目にさらさない配慮も大切だが、命を助けることを優先する[1]。
  • 未就学児用パッド(従来の小児用)を小学生以上に使ってはいけない。未就学児用パッドがなければ小学生〜大人用パッドで代用し、乳児は胸と背中に貼る[1]。
  • 解析が始まったら触れない。電気ショックの後や「ショックは不要です」の後は、ただちに胸骨圧迫から再開する。AED は 2 分おきに解析する[1]。

消防庁の通知は、ためらいをなくすために、119 番通報すれば胸骨圧迫などの指導が受けられること、反応や呼吸の判断に自信がなくても胸骨圧迫を始めてよいこと、心肺蘇生で傷病者を傷つけることを心配しなくてよいこと、人工呼吸による感染のリスクはきわめて低いこと、傷病者の性別にかかわらず AED のパッドを貼るために肌を出すことに問題はないこと、BLS を行った際に結果によって法的責任を負うことはないことを、講習で伝えるよう求めています[1]。

反応はないが普段どおりの呼吸がある場合は、吐いた物で喉が詰まらないよう横向きに寝かせ(回復体位)、救急隊が着くまで観察を続けます[2]。寝かせ方は講習で練習してください。

喉に物が詰まったとき

  • 強い咳ができるうちは、咳をさせて出させる[1]。
  • 声が出ない・咳ができないなど窒息と判断したら、大声で助けを呼び 119 番通報を頼んだうえで、背部叩打(肩甲骨の間を手のひらの付け根で強くたたく)を 5 回程度、効果がなければ腹部突き上げを 5 回程度、異物が取れるか反応がなくなるまで繰り返す[1]。
  • 明らかに妊娠していると思われる女性や高度な肥満の人には、腹部突き上げは行わず、背部叩打だけを行う[1]。
  • 乳児は頭を下げて、背部叩打と胸部突き上げを 5 回程度ずつ交互に。腹部突き上げは行わない[1]。
  • 1 人で 119 番を頼めないときは、通報より先に異物除去を行う[1]。反応がなくなったら心肺蘇生を始め、口の中に見えない異物を指で探らない[1]。
  • 腹部突き上げをした場合は、内臓を傷めている可能性があるので、異物が取れても医師の診察を受けさせる[2]。

キャンプで起こりやすいけがと病気

出血

基本は直接圧迫止血です。ガーゼ、ハンカチ、タオルなどを傷に当て、その上から直接押さえます。できればビニール手袋を着けるか、ビニール袋を手袋の代わりに使います[2]。押さえても血がにじむときは、最初のガーゼを外さずに、上からガーゼやタオルを重ねて押さえます[5]。止まらなければ、救急隊が着くまで押さえ続けます[2]。包帯などで手足の付け根側を縛る止血帯は、神経などを傷める危険があり、行うにはトレーニングが必要です[2]。

やけど

  • 服の上からでも、すぐに水道の流水で、痛みが和らぐまで 10〜20 分程度冷やす[2]。
  • 氷や氷水で冷やすと、かえって悪化することがある[2]。
  • 水ぶくれは傷口を守るので、つぶさないように冷やす[2]。
  • 範囲が広いときは、冷やすと全身の体温が下がる危険があるので避けて、できるだけ早く医師の診察を受ける[2]。
  • こども家庭庁は、やけどの範囲が手のひら以上の場合や水ぶくれの場合は病院を受診し、全身の広い範囲や顔面などのやけどはすぐに救急車を呼ぶよう案内しています[6]。

熱中症

日本スポーツ協会の熱中症予防運動指針は、暑さ指数(WBGT)31 以上を「運動は原則中止」(特に子どもの場合には中止すべき)、28〜31 を「厳重警戒(激しい運動は中止)」、25〜28 を「警戒(積極的に休憩)」、21〜25 を「注意(積極的に水分補給)」としています[7]。熱中症警戒アラートは、府県予報区などの暑さ指数の地点のいずれかで日最高暑さ指数が 33 以上と予測されるとき、熱中症特別警戒アラートは、都道府県内のすべての地点で翌日の日最高暑さ指数が 35 以上と予測されるときに発表されます[8]。詳しくは「熱中症警戒アラートと暑さ指数の読み方」へ。

  • 涼しい場所へ移し、衣服をゆるめて体を冷やす。首の両脇、脇の下、足の付け根に氷のうなどを当てる[9]。衣服を脱がせて体を濡らし、うちわなどで風を当てるのが効果的[2]。
  • 応答がはっきりしていて意識がしっかりしているなら、冷やした水分を口から飲ませる[9]。
  • 呼びかけへの反応がおかしい・応えないときは、水分が気道に入るおそれがあるので口から飲ませない[9]。意識がもうろうとしている、体温が極端に高いなどのときは、ただちに 119 番通報し、救急隊が着くまで冷やし続ける[2]。

ハチに刺されたとき・アナフィラキシー

  • 刺された場所が巣の近くなら、すぐに巣から離れる。1 匹に刺されると、ほかのハチの攻撃を受けることがある[10]。
  • 刺されたところをきれいな水で洗う[10]。針が残っていたら、根元から毛抜きで抜くか、横に払って落とす(針をつかむと毒がさらに入ることがある)[11]。
  • 全身に赤い発疹が出て腫れる、息苦しくなる、意識がもうろうとなる、などのどれかが起きたら、ただちに 119 番通報。アナフィラキシーには、アドレナリンという薬の一刻も早い使用が望まれる[2]。
  • エピペンについて:処方されている本人が 1 人ですぐに準備できない場合は、使えるように助ける[2]。学校や保育所などでは、教職員や保育所職員が本人に代わって使うことが認められています[2]。それ以外の場面での扱いは、主催者の方針と、本人の主治医の指示を事前に確かめておきます(このサイトからの提案)。
  • 救急隊を待つ間は、足を頭より高く上げた姿勢で寝かせ、吐くことに備えて顔を横に向ける[12]。症状がおさまっても、数時間後にぶり返す可能性があるので、必ずすぐに医師の診察を受けさせる[2]。
  • スズメバチが危険な時期は 7〜10 月で、黒い物に最も激しく反応し、香水などの化粧品のにおいにも敏感に反応します[10]。詳しくは「スズメバチに刺されないために」へ。

マダニに刺されたとき

マダニが媒介する重症熱性血小板減少症候群(SFTS)の致死率は 10〜30%程度とされます[13]。2025 年には神奈川県から初めて関東地方を推定感染地域とする報告、札幌市から北海道を推定感染地域とする報告があり、全国的に感染のリスクがあると考えられています[14]。

  • 刺されたことに気づいたら、できるだけ早く、1〜2 日以内を目安に皮膚科などを受診する[2]。無理に引き抜くと、マダニの一部が皮膚に残ったり、体液が逆流して病原体が入りやすくなったりするおそれがあります[14]。
  • やむを得ず自分で取るときは、指ではなく先の尖ったピンセットで口器の部分をつまみ、ゆっくり引き抜く。腹部はつままない。化学薬品、ライターなどの火、氷は使わない。取ったマダニは捨てずに保管しておく[2]。
  • 刺された後、数週間程度は体調の変化に注意し、発熱などがあればすぐに受診して、マダニに刺されたことを医師に伝える[14]。予防は「マダニとSFTS」へ。

低体温症と凍傷

体温が 35℃以下に下がった状態を低体温症といい、衣服が濡れているとリスクが高まります[2]。暖かい場所に移し、濡れた衣服は脱がせて乾いた毛布や衣服で覆って保温し、反応がにぶいときは 119 番通報して、救急隊を待つ間も保温を続けます[2]。凍傷は、こすったりマッサージしたりしてはいけません[15]。手当と治療は医療機関に任せます。寒さへの備えは「寒くない寝床のつくり方」へ。

一酸化炭素中毒

テントや車の中、雪洞など閉め切った場所で燃焼器具を使わないことが、いちばん確かな予防です(テントや車の中で火を使わない)。頭痛・めまい・吐き気などが出たら、新鮮な空気のある場所に移り、意識がないなど緊急性があれば迷わず 119 番通報します[16]。

そのほかのけがと病気

状態手当の要点
すり傷・切り傷水道水など清潔な流水で十分に洗う。消毒薬は必ずしも必要ない。深い傷や汚れがひどい傷は医師の診察を[2]
ねんざ・骨折の疑い冷却パックは薄い布を挟んで当てる。手足が変形していれば骨折が強く疑われ、添え木や三角巾で固定する。変形を元に戻す必要はない[2]
頭を打った意識がない、出血がひどい、繰り返し吐くときは救急車か至急受診。意識があって元気なときでも、1〜2 日は安静にして様子を見る[6]
食中毒が疑われる吐いた物は、使い捨てのマスクと手袋を着けて拭き取り、塩素系の漂白剤などで消毒する。速やかに最寄りの保健所に相談する[17]
ヘビにかまれた安静にして手足を動かさず、急いで医療機関へ。傷口を口で吸い出すことは推奨されない[11](毒ヘビ)

手当をしたら、いつ・どこで・何が起きて・どんな症状で・誰が・どんな手当をし・その後どうなったかを、救護の記録に書きます。救急隊への引き継ぎ、保護者への説明、事故のふりかえりに欠かせません(このサイトからの提案)。

考えてみよう

  1. あなたのキャンプで、AED を取りに行く係と 119 番通報の係を、どう決めておきますか。
  2. 水辺の活動で心停止が起きたら、AED を使う前に何をしますか。

このサイトの関連する記事

ふだんは

キャンプの前に講習で手順を体で覚え直し、行き先の AED の場所と、救急車が着くまでの時間を調べておきます。

もしもの時は

災害で救急車がすぐに来ないときも、胸骨圧迫、止血、冷やす・温めるといった手当は、居合わせた人の手でできます。

出典と調べた日

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