第16章 環境教育の歩みと地球環境の今
このページは「キャンプ指導の基礎」の一部です。キャンプ指導の一般的な知識をまとめたもので、特定の資格講習の公式教材ではありません。本文の[番号]は、ページの下の「出典と調べた日」の番号です。
ストックホルム会議から ESD for 2030 までの環境教育の歩みと、ベオグラード憲章の 6 つの目標、人口・資源・気温の数字、IPCC が示す気候変動のリスクと各国の削減目標、そしてキャンプで観察できる垂直分布・すみわけ・地形のしくみを学びます。
このページで学ぶこと
- 環境教育の国際的な歩みと、6 つの目標をキャンプで育てる方法
- 人口・資源の使いすぎ・気温の今の数字と、気候変動のリスク
- 垂直分布・すみわけ・地形を、観察と安全の両方に生かす
「第10章 キャンプと環境教育」では、キャンプが環境教育の土台になることを見ました。このページでは、環境教育の国際的な歩み、地球環境の今の数字、そしてキャンプで子どもと一緒に観察できる自然のしくみを学びます。
環境教育の国際的な歩み
| 年 | 出来事 |
|---|---|
| 1972 | 国連人間環境会議(ストックホルム)。学校の内外で、あらゆる段階の教育を対象にした、環境教育の国際的なプログラムをつくるよう勧告する[1] |
| 1975 | 国際環境教育ワークショップ(ベオグラード)で「ベオグラード憲章」がまとまり、環境教育の 6 つの目標を示す(下の表)[2] |
| 1977 | ユネスコの環境教育政府間会議(トビリシ)[3] |
| 1992 | 国連環境開発会議(リオデジャネイロ)。「アジェンダ 21」の中で、持続可能な開発のための教育の重要性が指摘される[4] |
| 1997 | テサロニキ宣言。環境教育を「環境と持続可能性のための教育」とも呼べるとする[5] |
| 2002 | 持続可能な開発に関する世界首脳会議(ヨハネスブルグ)。日本の提案で、実施計画に「ESD(持続可能な開発のための教育)の 10 年」が盛り込まれ、同じ年の国連総会で 2005〜2014 年を「国連 ESD の 10 年」とし、ユネスコを主導機関に指名する[4] |
| 2015 | 持続可能な開発目標(SDGs)。目標 4 のターゲット 4.7 で、2030 年までにすべての学習者が持続可能な開発を進めるための知識と技能を身につけることを掲げる[6] |
| 2019 | 2020〜2030 年の ESD の枠組み「ESD for 2030」が、ユネスコ総会で採択され、国連総会で承認される[4] |
日本では、「環境教育等による環境保全の取組の促進に関する法律」(平成 15 年法律第 130 号)が、自然体験活動などを通して環境への理解を深める「体験の機会の場」を認定するしくみを定めています(第 20 条)[7]。
環境教育の 6 つの目標とキャンプ
ベオグラード憲章は、環境教育の目標を 6 つ示しています[2]。キャンプでの例は、このサイトの考えです。
| 目標(憲章の語) | 意味 | キャンプでの例 |
|---|---|---|
| 関心(Awareness) | 環境とその問題に気づき、敏感になる | 森の静けさ、星空、川の冷たさに心を動かされる |
| 知識(Knowledge) | 環境とその問題を基本的に理解する | 下の「植物の垂直分布」や「すみわけ」を、実際に見て確かめる |
| 態度(Attitude) | 環境を大切にする価値観と、守ろうとする気持ちを持つ | ごみを持ち帰る。水やまきを無駄にしない |
| 技能(Skills) | 環境の問題を解決する技能を身につける | 影響の少ない炊事、たき火の後始末 |
| 評価する力(Evaluation ability) | 環境のための取り組みや教育を、さまざまな観点から評価する | 自分たちのキャンプが自然に与えた影響をふりかえる |
| 参加(Participation) | 環境の問題に責任と切実さを感じ、解決に向けて行動する | 地域の清掃や里山の手入れに参加する |
キャンプは、とくに「関心」と「知識」を、体験を通して育てるのに向いています。「態度」から先は一人ひとりの気持ちの変化に関わるので、困難を乗りこえて「自分にもできる」と感じる冒険的な活動も、その力になると考えられます(このサイトの考え)。
地球環境の今を数字で見る
- 人口:国連の推計では、世界の人口は 2024 年の約 82 億人から、2080 年代半ばに約 103 億人まで増えて頭打ちになる見込みです[8]。
- 使いすぎ:人類が使う資源の量は、1970 年代の初めに地球が再生できる量を超えました(オーバーシュート)[9]。グローバル・フットプリント・ネットワークによると、今の人類は、地球の生態系が再生できる速さの 1.8 倍の速さで自然を使っており、その年の再生できる量を使いきる日(アース・オーバーシュート・デー)は、2025 年は 7 月 24 日でした[10]。
- 気温:世界気象機関(WMO)によると、2024 年の世界の平均気温は工業化前(1850〜1900 年の平均)より約 1.55℃(±0.13℃)高く、175 年の観測で最も暑い年でした[11]。2015〜2025 年の 11 年は、観測史上最も暑い 11 年です[12]。
気候変動のリスクと、キャンプ
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第 6 次評価報告書は、統合報告書の政策決定者向け要約が 2023 年 3 月に承認されました[13]。そのうち第 2 作業部会の報告書(2022 年)の政策決定者向け要約は、温暖化が進むと深刻になる「代表的な主要リスク」を 8 つの分野に分けて示しています[14]。キャンプとの関係は、このサイトの考えです。
| リスクの分野(IPCC の分類) | キャンプとの関係の例 |
|---|---|
| 沿岸の社会と生態系 | 海辺のキャンプ場の高潮・浸水 |
| 陸と海の生態系がもたらすもの | 観察できる動植物の変化 |
| 重要なインフラ・ネットワーク・サービス | 豪雨で道路が切れ、キャンプ場が孤立する |
| 生活水準と公平性 | 弱い立場の人ほど影響を受ける |
| 人の健康 | 夏の熱中症の危険が高まる |
| 食料の安全保障 | 食材の値段や手に入りやすさの変化 |
| 水の安全保障 | 渇水と豪雨・洪水 |
| 平和と人の移動 | 気候に関わる争いや移住 |
気候変動は、すでにキャンプの現場を変えています。夏の熱中症対策や、短い時間の強い雨による増水・土砂災害への備えは、以前にも増して大切です(このサイトの考え)。暑さの判断は「熱中症警戒アラートと暑さ指数(WBGT)の読み方」、増水は「川遊びの水難を防ぐ」へ。
温室効果ガスの削減目標
2015 年のパリ協定は、世界の平均気温の上昇を工業化前から 2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力を続けることを目標にしています。各国は削減目標(NDC:国が決定する貢献)を 5 年ごとに提出します[15]。
| 国・地域 | 目標(2026 年 11 月に確かめた内容) |
|---|---|
| 日本 | 2030 年度に 2013 年度比 46% 削減(さらに 50% の高みに挑戦)。2035 年度に 60%、2040 年度に 73% 削減を目指す(2025 年 2 月 18 日に提出)[16] |
| EU | 2030 年に 1990 年比で少なくとも 55% 削減。2035 年に 66.25〜72.5% 削減[17] |
| 中国 | 2035 年までに、経済全体の温室効果ガスの純排出量をピーク時から 7〜10% 減らす(2025 年 11 月 3 日に提出)[18] |
| 米国 | パリ協定からの脱退を通告し、2026 年 1 月 27 日に脱退が効力を持った[19] |
目標は今後も更新されます。最新の内容は、環境省の「NDC」のページなどで確かめてください[16]。
キャンプで観察できる自然のしくみ
植物の垂直分布
山を登ると気温が下がります。標準的な大気では、高さが 100 m 上がると気温はおよそ 0.6℃下がります[20]。そのため、標高によって生える植物が変わり、帯のように分かれて分布します(垂直分布)。環境省中部地方環境事務所などの白山の資料は、本州中部の目安を、標高 500 m・1,500 m・2,500 m あたりで分けて、照葉樹林(シラカシ・スダジイなど)、夏緑樹林(コナラ・ミズナラ、ブナなど)、針葉樹林(オオシラビソなど)、高山帯(ハイマツ、お花畑など)と示しています[21]。一方、辞書では、本州中部の山地帯を海抜 700〜1,700 m[22]、亜高山帯を標高 1,700〜2,500 m[23] としています。境目の標高は、資料や山によって数百 m 違います。
登山の途中で「木の種類が変わったところ」を子どもと一緒に探し、標高を地図で確かめると、気温と植物の関係が体で分かります(このサイトからの提案)。
生き物のすみわけ
よく似た暮らしをする生き物は、すむ場所をずらして暮らしていることがあります。
- 2 種類のシロチョウ:モンシロチョウとスジグロシロチョウは、どちらもアブラナ科の植物を食べるよく似たチョウですが、「モンシロチョウが明るい,開けた環境を好むのに対し,本種はやや日陰を好む」とされます[24]。
- 川の魚:日本の川では、ふつう最上流にイワナ、その下流にヤマメがすみます。東京都の資料は、水温でいうと、イワナは夏の最高水温が 15 度を超えない場所に、ヤマメは 20 度をあまり上回らない流れにすむと説明しています[25]。ただし、学会の研究発表の要旨には、夏の水温 15℃を境に多い種が変わるという指摘の一方で、川の勾配なども大切で、水温だけでは説明しきれないという指摘も多い、とあります[26]。
自然観察では、「なぜここにはこの生き物がいて、あそこにはいないのか」と問いかけると、子どもたちの観察が深まります(このサイトの考え)。
地形は水がつくる
ここからは、このサイトの説明です。岩は雨や気温の変化、植物の根などで少しずつ崩れ(風化)、水に削られ、運ばれ、積もります。今見えている谷・扇状地・川原・崖は、その結果です。つまり、地形の変化が大きい場所は、水の動きが活発な場所であり、災害が起こりやすい場所でもあります。
| 地形 | 読みとれること | キャンプでの注意 |
|---|---|---|
| 川原・中州 | 増水のたびに水が流れる場所 | テントを張らない。上流の雨で急に増水する |
| 沢の出口・扇状地 | 土石流が運んだ土砂が積もった場所 | 大雨のときは土石流の危険 |
| 崖・急な斜面の下 | 崩れた土砂や岩が積もる場所 | 落石・崩落 |
| くぼ地 | 雨水が集まる場所 | 大雨で水がたまる |
テントサイトを選ぶときは、「この地形は、水がどう動いてできたのか」を考えると、安全を判断する手がかりになります。ハザードマップでの確かめ方は「実技8 下見とキャンプの危険」、テントの場所は「テントを張る場所の選び方と設営・撤収」へ。
考えてみよう
- ベオグラード憲章の 6 つの目標のうち、あなたのキャンプで育てやすいものと、育てにくいものはどれでしょうか。
- 次のキャンプ場で、地形から「水がどう動くか」を読み、テントを張らない場所を挙げてみましょう。
このサイトの関連する記事
ふだんは
近所の川や公園でも、日なたと日かげで見られる生き物を比べてみましょう。身近な自然の観察が、環境への関心の入口になります。
もしもの時は
地形から水の動きを読む目は、自宅の周りの浸水や土砂災害の危険を考えるときにも役に立ちます。ハザードマップと合わせて見てみましょう。
出典と調べた日
- [1] United Nations “Report of the United Nations Conference on the Human Environment”(Stockholm, 1972) (2026-11-02 に確認)
- [2] UNESCO-UNEP “The Belgrade Charter”(1975、写し) (2026-11-02 に確認)
- [3] McGill Journal of Education(トビリシ会議についての論文) (2026-11-02 に確認)
- [4] 文部科学省「ESDに関する国際的・国内的動向」 (2026-11-02 に確認)
- [5] “Declaration of Thessaloniki”(1997、写し) (2026-11-02 に確認)
- [6] United Nations “Goal 4” (2026-11-02 に確認)
- [7] e-Gov 法令検索「環境教育等による環境保全の取組の促進に関する法律」 (2026-11-02 に確認)
- [8] United Nations “UN projects world population to peak within this century” (2026-11-02 に確認)
- [9] Global Footprint Network “Media Backgrounder” (2026-11-02 に確認)
- [10] Global Footprint Network “Earth Overshoot Day 2025” press release (2026-11-02 に確認)
- [11] WMO “State of the Global Climate 2024” (2026-11-02 に確認)
- [12] WMO “State of the Global Climate 2025” (2026-11-02 に確認)
- [13] 気象庁 報道発表「IPCC 第 6 次評価報告書 統合報告書の公表について」 (2026-11-02 に確認)
- [14] IPCC AR6 WGII “Summary for Policymakers”(2022) (2026-11-02 に確認)
- [15] UNFCCC “Paris Agreement” (2026-11-02 に確認)
- [16] 環境省「日本の NDC(国が決定する貢献)」 (2026-11-02 に確認)
- [17] UNFCCC 提出文書「EU の NDC」(2025 年 11 月 5 日) (2026-11-02 に確認)
- [18] European Parliamentary Research Service “China's 2035 NDC” (2026-11-02 に確認)
- [19] United Nations 寄託者通告 C.N.71.2025.TREATIES-XXVII.7.d (2026-11-02 に確認)
- [20] 気象庁 名古屋地方気象台「愛知県の気候」 (2026-11-02 に確認)
- [21] 環境省中部地方環境事務所ほか「登るとわかる(かわる)植生垂直分布」 (2026-11-02 に確認)
- [22] コトバンク「山地帯」(デジタル大辞泉) (2026-11-02 に確認)
- [23] コトバンク「亜高山帯」(デジタル大辞泉) (2026-11-02 に確認)
- [24] コトバンク「スジグロシロチョウ」(世界大百科事典) (2026-11-02 に確認)
- [25] 東京都島しょ農林水産総合センター(旧サイト)「12.ケモノのような暮らし……イワナ」(1993 年) (2026-11-02 に確認)
- [26] 日本生態学会 第 62 回大会 講演要旨 J1-21 (2026-11-02 に確認)