第13章 ルールとマナー、指導者の責任

このページは「キャンプ指導の基礎」の一部です。キャンプ指導の一般的な知識をまとめたもので、特定の資格講習の公式教材ではありません。本文の[番号]は、ページの下の「出典と調べた日」の番号です。

キャンプのルールとマナーが何のために必要かを 5 つの観点で整理し、ほかの利用者と自然への影響、指導者の注意義務、事故のときに問われうる民事・刑事の責任と関係する条文、危険への 4 つの手の打ち方と中止の基準を学びます。

このページで学ぶこと

  • ルールとマナーが必要な 5 つの理由
  • ソシオロジカル・インパクトとエコロジカル・インパクト
  • 指導者の注意義務と、事故のときに問われうる責任
  • 危険への手の打ち方と、中止・変更の基準を前もって決める理由

ルールとマナーが必要な 5 つの理由

日本キャンプ協会の「キャンプ指導者入門」の資料(理論編 第 1 章)は、キャンプのルールとマナーを、何のために必要かという 5 つの観点に分けて示しています[1]。その観点に沿って、このサイトの言葉で整理します。

何のためか内容の例
1. キャンプの目的を達成するため時間を守る、あいさつをする、自分のことは自分でする、ほかの人を尊重する。服装を整え、用具を正しく使い、活動の範囲を決める。そのキャンプのねらいに合わせた約束
2. キャンパー同士のトラブルを避けるためほかの利用者への影響(下の「ソシオロジカル・インパクト」)を限度の内にとどめる
3. 指導するときのルールとして指導者の法的な義務(下の「指導者の注意義務」)
4. 事故が起きたときのため誠意をもって対応する。補償に備えて保険に入る。話し合いで解決しなければ、裁判で法に沿って決着する
5. 自然環境に配慮するため自然への影響(下の「エコロジカル・インパクト」)を、自然が受け入れられる量の内にとどめる

参加者に約束を伝えるときは、「だめだから」ではなく、この「何のためか」を一緒に伝えると、守る理由が分かって行動が変わります。約束そのものをグループで話し合って決めるのも、よい方法です(このサイトの考え)。

ほかの利用者への影響:ソシオロジカル・インパクト

キャンプ場には、自分たち以外の利用者もいます。自分たちの行動がほかの人に与える影響を、同じ資料は「ソシオロジカル・インパクト(Sociological Impact)」と呼び、限度を超えるとトラブルのもとになるとしています。例として、騒音、悪臭、衛生、下水の処理、ペットの持ち込みが挙げられています[1]。

組織キャンプは人数が多いぶん、影響も大きくなります。消灯後の話し声、夜のライトの光、早朝の大声、炊事場の使い方、トイレの汚し方は、とくに気をつけたいところです(このサイトの考え)。

自然への影響:エコロジカル・インパクト

同じ資料は、自然環境に配慮するための考え方として、次の 3 点を挙げています[1]。

  • 自然への影響(エコロジカル・インパクト、Ecological Impact)が、自然が受け入れられる量(環境許容量、キャリング・キャパシティ)を超えないようにする。
  • 原生的な自然では、影響を最小限にする「ミニマムインパクト」と、痕跡を残さない「リーブ・ノー・トレース」を実践する。
  • ただし、二次的な自然(人が手入れをしてきた里地里山)では、その土地の暮らし方に従うことも必要。

里山の雑木林は、人が木を切り、落ち葉をかいて使ってきたことで保たれてきた自然です。そうした場所では「何も触らない」より、地域の人の手入れのしかたに学ぶほうが、自然のためになることがあります(このサイトの考え)。リーブ・ノー・トレースの 7 つの原則は「第3章 自然との関わり方」へ。

指導者の注意義務

同じ資料は、指導者の法的な義務として「注意義務」を挙げ、その中身を危険予知義務と危険回避義務に分けて、判例の理解が必要だとしています[1]。

  • 危険を予測する:その活動に、どんな危険があるかを前もって考える。
  • 危険を避ける:予測した危険を避けるために、手を打つ。

「予測できたのに予測しなかった」「予測したのに手を打たなかった」ときに、責任が問われる、と考えると分かりやすくなります。どこまでの注意が求められるかは、活動の内容、参加者の年齢や経験、その場の状況によって変わります。ここに書くのは一般的な知識で、法律の助言ではありません。具体的な事例の判断は、弁護士などの専門家に相談してください。

事故が起きたときの責任

事故が起きたら、まずけが人の救護を最優先し、誠意をもって対応します。補償に備えて、主催者は傷害保険と賠償責任保険に入っておきます[1]。保険の例は「第4章 安全管理(1)」の「保険」へ。

話し合いで解決しないときは、裁判で決着することになります。主に問われうる責任と、関係する法律の条文は次のとおりです。

責任内容関係する条文(抜粋)
民事上の責任損害を賠償する責任民法 709 条(不法行為):「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。」[2]
民法 715 条(使用者責任):「ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。」[2]
民法 415 条(債務不履行):契約にもとづく義務を果たさなかったときの損害賠償[2]
国家賠償法 1 条:公権力の行使に当たる公務員が、職務を行うについて故意または過失で違法に損害を与えたときは、国や地方公共団体が賠償する[3]
刑事上の責任刑罰を受ける責任刑法 211 条(業務上過失致死傷):「業務上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、五年以下の拘禁刑又は百万円以下の罰金に処する。」[4]
社会的な責任信頼を失う所属する団体での処分、団体や施設への信頼の低下(このサイトの整理)

過去の事故の事例(判例)を知っておくことが、注意すべき点を知るいちばんの近道です。所属する団体の研修や、指導者の講習会で取り上げられる事例を学んでおきましょう(このサイトからの提案)。

危険とどう向き合うか

ここからは、このサイトの整理です。キャンプの危険は、ゼロにはできません。そこで、まず危険のもと(増水しやすい川、刃物、火、急な斜面など)を見つけ、次に、そこでけがが起きる見込みと、起きたときの重さを見積もり、手の打ち方を選びます。手の打ち方は、大きく 4 つに分けられます。

手の打ち方キャンプでの例
避ける危険の大きい活動をやめる。増水の見込みがあれば川の活動を中止する
小さくするライフジャケットを着る。人数を絞る。指導者を増やす。活動の範囲を決める。下見をする
分け合う保険に入る。専門の事業者や指導者に、その活動を任せる
受け入れる小さな擦り傷のように、起きても対応できる危険は、承知したうえで活動する。キャンプの価値は、ある程度の挑戦から生まれる

大切なのは、どれを選んだかを、指導者どうし、そして保護者と前もって共有しておくことです。とくに、中止・変更の基準(「川の水が濁ったら上がる」「雷鳴が聞こえたら建物へ」「熱中症警戒アラートが出たら日中の登山をやめる」など)は、その場の空気に流されないように、計画の段階で決めておきます。

危険の見積もりは、事故を起こしかけた「ヒヤリ・ハット」の記録から始めると具体的になります。ハインリッヒの法則やヒヤリ・ハットは「第4章 安全管理(1)」、下見で確かめることは「実技8 下見とキャンプの危険」へ。

指導者の睡眠も安全管理の一部

眠気と疲れは、判断力と注意力を落とします。キャンプが進むほど、指導者の疲れはたまっていきます。毎晩のスタッフミーティングを長引かせない、交代で休む時間をとる、車を運転する人は十分に眠る、といった配慮は、指導者のためだけでなく、参加者の安全のためにも必要です(このサイトの考え)。

考えてみよう

  1. あなたのキャンプで参加者に伝える約束を 3 つ挙げ、それぞれ「何のためか」を一言で説明してみましょう。
  2. 川遊びの計画を例に、「避ける」「小さくする」「分け合う」「受け入れる」の手の打ち方を 1 つずつ考えてみましょう。

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ふだんは

家族や仲間とのキャンプでも、「何のための約束か」を子どもと話してから出かけると、守る理由が伝わります。

もしもの時は

「川の水が濁ったら上がる」のように、やめる基準を前もって決めておく考え方は、台風や大雨のときの避難の判断にも使えます。

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